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【レポート&ご質問への回答】突撃!となりの業界のUX ―― 教育・金融・医療の「業界のプロ」とつくるデザイン


こんにちは。デザイングループの中村です。先日、イベント『突撃!となりの業界のUX』に登壇させていただき、THE GUILD代表取締役でnoteのCXOを務める深津貴之さんをモデレーターに、「医療」のUbieさん、「教育」のatama plusさん、そして「金融」のみんなの銀行という異なる業界の担当者が集ってトークセッションを行いました。今回はイベントを振り返りながら、当日いただいたご質問に回答していきたいと思います。 


イベントを振り返って思うこと

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医療、教育といった専門的な業界における体験設計についてお伺いでき、多くを学ぶことができました。各領域には必ずその「業界のプロ」、医療では医師、教育では教師、そして金融では銀行員が存在し、デザインや開発は、彼らと協働しながら進めるというのは同じでしたが、その協働のアプローチはそれぞれ独自の方法を取られているのが大変興味深かったです。

👇Ubieプロダクトデザイナー 村越 悟さんのnote

Ubieさんでは、医師をスクラムに巻き込んでプルリクエストまでやってもらっているそうで、その高いレベルに驚きましたし、atama plusさんでは、複数の業界のプロが存在するそうなので、各方面との連携は簡単ではないだろうなと思いました。

こういったアプローチはインハウスだからこそできること。業界のプロを迎え入れ、一つのチームとして一緒に考え進めていくことはインハウスの利点ですから、企業もこれを活かしきることにコミットしなければならないですよね。

一方で各社の共通点としては、コミュニケーションに対してきちんとリソースを投入してコストをかけている、ということ。密な報告・連絡・相談でお互いの理解を深めながら進めることで、新しいサービスやより良い体験が生まれてくるという考え方は同じでした。

そして、今回のモデレーター・深津さんは、ご自身の経験談を交えながら全体のお話をリードしてくださいました。おかげでスムーズに進行し、登壇者としては安心して参加することができ感謝しています。医療、教育、金融という異なる業界に跨ったお話をリードするには業務理解が求められますし、そう簡単ではないかと想像しますが、さすがのご知見。深津さんだからこそできたのだと思います。

イベントでいただいたご質問にお答えします

さて、イベントでは参加者の皆さんからたくさんのご質問をいただきました。久々の登壇だったので実はめちゃくちゃ緊張していたこともあり……ご質問にお答えできないまま終了してしまいましたので、noteでお伝えしていきたいと思います。

【Q】銀行という特性上、ユーザーに伝えるべき言葉の量が多くなったり、難しい言葉などが発生しがちだと思うのですが、言葉の体験はどういうことに留意されていたり、工夫されていたりしますか

おっしゃる通り、銀行特有の難しい言葉がたくさんあります。例えば「組戻し」という言葉がありますが、ほとんどのお客さまはご存知ないでしょう(私も入社して初めて知りました)。組戻しとは、お客さまが振込みの手続きをした後に、お客さまの都合でその振込みを取消す依頼をすること(組戻しには一定の手数料が発生し、また受取人の許可がない限り成立しません)。難しい言葉は分かりやすい別の言葉に置き換えたいところですが、「組戻し」は民法にも記載されている銀行業界共通の言葉なので、自由に変更することはできません。そこで難しい言葉にはシンプルな説明文章を添えて、お客さまが分からなかったり迷ったりしないよう留意しています。

また「言葉の体験」についてですが、みんなの銀行ではブランドパーソナリティの構築に力を入れています。ブランドパーソナリティとは、ブランドを擬人化したペルソナ(話し手となるペルソナ)を設定し、そのペルソナでライティング等も含めてブランドのイメージを作っていく手法です。その人になりきって、その人が同じトーンで話すことでブランドらしさの一貫性を保ち、それを文章に取り入れたライティングをしています。

👇ブランドパーソナリティについてこちらのnoteでお話しています。

【Q】銀行という業種を今の柔らかくシンプルな表現に落せたのがすごいと思っているのですが、他のステークホルダーの方もこういうイメージのものを好んでいたのか、それとも全体のイメージからデザイナー側が説得したのかが気になります(勝手なイメージだと、デザイナーだけの意思でここまで思い切ったアウトプットにするのは難しそうだなと思ったので気になりました)。

みんなの銀行のブランドイメージについては、デザインチームで検討・提案し、このコンセプトの意味や意図を社内にしっかりと説明した上で、経営層とも合意を得ました。当初より経営層の中には「デジタルバンクなので、既存の銀行っぽくない方向にして欲しい」という考えがあったこともあり、ソリッドな白と黒、有機的なイラストを交えるなど、メインターゲットとするデジタルネイティブ世代に合わせたブランド構築を行ない、説得していくことにしました。結果として経営層の反応も非常に良く、「よし、これでいこう!」となりました。

【Q】銀行など金融機関のプロフェッショナルはSME(Subject Matter Expert)だけでなく、システム構築や開発もそのドメイン特有の方法や価値観・文化もあると思いますが、システム・開発のチームとのコミュニケーションはどのような工夫をされていましたか?

システム開発チームとのコミュニケーションは、どちらかというとSMEが行い、ロジック周りを詰めています。デザインチームではフロントエンドチームと共にモーショングラフィックやUIレイアウトなどについて密に連携することが多いです。コミュニケーションは通常Slack上で行っていますが、それだけではなく、週1回の定例のミーティングで細かな共有を行ったり、デザインに関するスポットのミーティングにも参加してもらったりしています。

【Q】みんなの銀行さんのデザイナーはどうやってドメイン知識を得ているのだろうか? 営業や企画と話ができるレベルまで知識を上げる必要がありそうで、誰もがドメイン知識を上げるための仕組みがあるのだろうか?

デザイナーは、まず業務理解を深めるため、SMEのスタッフからみっちりとレクチャーを受けます。商品・サービスの概要から始まり、お客さまに何を提供するのか、どんなリスクが想定されるのか。それらを理解した上で設計を進めていくのですが、途中途中でも銀行出身の業界のプロに入ってもらい、分からない点があれば質問して、といったことを繰り返しながら進めています。ちなみにこのレクチャーはすごく有用で、お金についての知識が増えました。また、デザインチームでは独自にファイナンシャルプランナーの資格取得を推進していて、現在2級、3級を持つデザイナーも在籍しています(私は3級の実技で不合格になったので次回再挑戦します笑) 。

【Q】デザイングループがコミュニケーションを意識し率先して、他部署・他チームと関わり始めるためにはどんなことが必要でしょうか? 弊社はどちらかというとデザイングループが受け身の体質で、デザイナーにプロダクトオーナーがインプットをしながら、一緒に作り上げていくスタイルです。デザイナーにもっと前に出て欲しいと考えており、何かアドバイスをいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

みんなの銀行のデザイングループが担当する業務範囲にはデザイン判断、デザイン承認(体験および画面やイメージ含む)と、デザイン/ブランドガイドラインの作成・運用などがありますので、まずはこの役割をチーム全員で理解すること。次に各デザイナーの権限・責任を明確化し、そして個人に割り当てていくことで、デザイナーも率先して動きやすくなるのではないかと考えています。プロダクトデザインは部門横断で進んでいくものなので、その境目も入り組んでいて曖昧なまま進む時もありますが、前提の理解があれば、デザイナーも責務を全うするために前進しやすくなると思っています。ご参考になれば!

【Q】プロダクトの仕様を詰める際、SMEさんでも全ての注意事項を網羅するのは難しいと思いますが、どのようなフローで要件を洗い出されていますでしょうか。

ほとんどの場合、金融に関連する注意事項はSMEがリストアップします。なぜなら、SMEの経験・知見を活かせる腕の見せ所でもあるからです! とはいえ実際にデザイナーがワイヤーフレームなどに落とした時に、その他に必要な要件がないかどうかは、様々なリスク・法令観点からみんなで一緒に確認を行います。そこで漏れに気付いた場合は、協議して要件を追加していきます。

【Q】機能やUXではなく、「世界観」「トーン」「ブランドアイデンティティ」などは、どうやって合意形成していったのでしょうか?

1年以上かけて少しずつビルドアップし、合意を重ねながら進めていきました。Fjord Tokyoビジュアルデザインディレクターと行った対談が公開されていますので、詳しくはこちらのnoteをご覧ください。

【Q】デザイン原則もSMEやほかのロールの皆さんと一緒に作成されましたか? また、どのくらい議論に時間を費やしたかや、大変だった部分があれば教えていただきたいです。

デザイン原則は、デザインチームを中心に作成しました。ただし、原則と言うからには全てのプロダクトデザイン及びコミュニケーションデザインに関わってくることなので、社内への共有と合意を得ることはもちろん行っています。詳しくはこちらのnoteご覧ください。

【Q】ユーザー中心とお客さま第一って何が違うの? 同じじゃないの?

はい、おっしゃる通り同じです! 「ユーザー・お客さま」を起点としたコミュニケーションに力を入れました。

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【Q】みんなの銀行さん、今何名くらい社員さんいるのかしら。

みんなの銀行プロジェクトは、みんなの銀行とゼロバンク・デザインファクトリーの両社で行っていますが、合計した社員数は、9月1日時点で147名です(役員、派遣社員、業務委託メンバーを除く)。そのうちの約6割はキャリア採用組で、出身業界も実に様々です。

【Q】みんなの銀行さんで「ユーザを主語に置く」、「相手を理解する気持ちを大切に」といったマインドはどのようにして組織に浸透していったのでしょうか? どういう立場の方が推進されましたか?

社内での浸透を目指しているところです。みんなの銀行にはミッション・ビジョン・バリューを実現するための行動指針​「INSIGHT」があり、INSIGHTの頭文字をとった7つの仕事の流儀が定められています。例えば、Into the Customer(顧客が「次に」欲しいと思うモノを誰よりも先に創ろう)や、Stand United with Compassion(常に「思い遣り」の精神を持とう)。社内で発足したINSIGHT広め隊が中心となって、浸透活動を行なっています。ちなみにINSIGHT広め隊には、INSIGHTの体現者としてプロジェクト全体を牽引する気持ちがあれば役職・所属・年齢などは関係なく、みんなが立候補できるようになっています。

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【Q】金融の場合、ウォーターフォール開発が一般的だと思いますが、アジャイルな性格が強い(であろう)デザインプロセスを進める上で、その苦労や乗り越え方は?

みんなの銀行の場合、どちらかというとウォーターフォールとアジャイルのハイブリッド開発です。決まっているモノはウォーターフォールで効率良く作り、そして不確定なものはアジャイルで作るイメージ。Box(貯蓄預金)のような新しいサービスを作る時は、開発前にプロトタイプなどを使ってフィジビリティ確認とユーザビリティテストを行なってから開発に渡す、というような流れで進めました。

【Q】みんなの銀行さんで、シンプルな統一されたイラストがとてもおしゃれだな〜と思いました。こちらのイラストは、デザイナーさんが描いたものでしょうか? それとも素材データから入手したものなのでしょうか? それ以外の方法でしょうか? イラストを差し込むとテイストが違ったものが混在したりして、トンマナを揃えるのが難しいな〜と思うことがあります。どのようにイラストを作成しているか教えていただきたいです。

みんなの銀行のブランドイラストは、専属のイラストレーター世戸ヒロアキさんに直接依頼して描き下ろしてもらっています。プロダクトやビジュアルデザインを作る中で、必要な箇所については世戸さんに依頼し、共同で制作しています。 詳しくはこちらのnoteをご覧ください。

以上、たくさんのご質問をいただきました。今後は、こういったみんなの銀行のデザインや組織についてご紹介できる場をもっともっと作っていきたいと思います。Ubieさん、atama plusさん、そして深津さん、ありがとうございました!

筆者紹介

中村さん

中村 隆俊
株式会社みんなの銀行 デザイングループ リーダー。デザインマネージメントおよびディレクションを担当。デジタル領域のプロダクトデザイン(UI/UX)を中心に株式会社エムスリー、株式会社ラクスルを経て、2019年に東京から福岡へ移住。ふくおかフィナンシャルグループ みんなの銀行プロジェクトに参画し現在に至る。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。趣味はクラフトビール探索。


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