銀行をとらえなおす、みんなの銀行におけるUXリサーチの現在地
はじめまして! みんなの銀行 井手です。
デザインチームでUXリサーチを担当しています。
専任のUXリサーチャーを置いている銀行は、まだ珍しいのではないでしょうか。
この記事では、UXリサーチ導入フェーズにあるみんなの銀行で、わたしが心掛けている工夫をいくつかご紹介したいと思います。
「未完成の銀行」に伴走する翻訳者
さて、いよいよ来月5月下旬にサービス提供開始を控えたみんなの銀行ですが、
デジタルバンクを謳っていることから、いわゆるネット銀行と何が違うの?とよくお尋ねいただきます。
大きな違いは、既存の銀行の仕組みをオンラインに置き換えたものではなく、ゼロからつくるならばどのような仕組みになっているとよいだろう?という視点を持って構築されていく点だと考えています。
そういう意味で、みんなの銀行は「少しずつできていく銀行」であり、「少しずつ変わり続ける銀行」とも言えると思うのです。
つまり、
わたしたちは今どこに立っていて、これからどんな方角に向かってプロダクトを育てていくのか?
という問いと常に向き合っていくことになります。
自社のアセットを棚卸しして、理想とする世界観をかたちづくるプロセスのなかで、UXリサーチの機能はその要を担っています。
最終面接で頭取の横田さんと、 定量と定性の両輪どちらが欠けても不十分だ、と熱く!会話したことを覚えています。
(ちなみに社内では頭取、副頭取ともに「さん」付けでお呼びしていますが、これも銀行としてはきっと珍しいことだと思うんです!)
「少しずつできていく銀行」にこれから参加してくださる皆さんが、日常でどんな風にお金と付き合っているのか、そしてその背景にどんなことがあるのか、社内メンバーとの間に立つ「翻訳者」であれるよう、がんばっています!
リサーチ導入期におすすめしたい3つの工夫
組織のUX成熟段階を表す、こちらのモデルを目にされたことはありますでしょうか。
引用元:https://www.sociomedia.co.jp/6997
現在わたしたちの組織は、こちらで示されるところの5段階のうち、2段階目「関心がある(UXは重要だが、あまりお金はかけられない)」から3段階目「投資している(UXはとても重要であり、公式プログラムがある)」への移行期に位置していると思います。
毎日オンライン、物理オフィスのあちこちでいろんなトピックが会話されており、例えるならお祭り会場のような賑やかさ。まさに仕組みづくりの真っ只中です。
UXリサーチの機能が社内に認知されないうちは、黙っていると探索や検証を取り入れないままにプロダクトの要件定義や設計が進んでいくことすらあると思います。
そんな環境のなか、わたしがまず実践してきたのは以下の3つです。
1. 戦略的ウロウロ
2. 会話のための可視化
3. 専門用語を使わない
1. 戦略的ウロウロ
いろんなチームに顔を出す。リアクションスタンプを押す。オンラインランチに誘う。用事がなくても、別のフロアに寄ってから戻る。
顔と名前と役割を知ってもらう意味もありました。
また、一見関係ないのですが、社内向けイベントもいくつか切り口を変えて企画してきました。実務で関わるメンバー以外とも雑談できる関係を増やしてこられたかなと思います。
イベント時の雑談から、今度リサーチしたいんですよね、という声をいただくこともありました。
2. 会話のための可視化
上位下位関係分析から文章化した擬似ユーザーさんの人物像を、イラスト付きにして社内報っぽく発信してみたり、企画初期ならAs-Isシナリオを持ち込んで検討のたたき台にしてもらったり、オンラインの議論に進行役的に入り、画面共有しながら話の流れや構造を整理したりしています。
最近気づいたのは、綺麗なPPTスライドをつくって持ち込むより、ただのテキストメモや作成途中の歯抜け資料のほうが、場の発言が活発になるなあということです。
とくにまだ共通言語が少ない若い組織故、ひとつのものを見ながら会話するのは大事だなと思います。
3. 専門用語を使わない
わたしたちの組織は、いわゆるプロダクト開発組織とはきっとすこし違って、いろんな業界を出自とするメンバーが揃っています。
会話のなかで、とくに自分から言わないようにしているのは「UX」と「デザイン」という言葉です。多くの捉えられ方があり得る曖昧な言葉を使わずに、平易で具体的な言葉を使います。
また、たとえば「構造化シナリオ」を説明するより本題に時間を割いた方が建設的だ、と思えば、手法を知らなくてもシナリオの中身で議論できるよう紙芝居スタイルにして持ち込みます。
2タイプのリサーチ体制へ
金融庁から銀行業免許をいただいた銀行としての堅牢性を前提にしながら、銀行の在り方をアップデートしていくというのは、言わずもがなではありますが並大抵のハードルではなく、理想との折り合いを見定めるためにこれまでいろんなリサーチが走っていました。
当然、わたし1人では経験値の面でもリソースの面でもハンドルしきれず、体制面ではずっとデザインチームのアクセンチュアの皆さんに先導いただいたり支えていただいたりしています。(デザインチームは現在、みんなの銀行メンバー、アクセンチュア/フィヨルドメンバー約半々の総勢12名で構成されています!わいわい)
みんなの銀行におけるリサーチを大別するなら、つい最近までは完全にプロジェクト型リサーチがメインだったと思います。プロジェクトのフェーズに沿って、デプスインタビューやコンセプトテストといった内容から、5月下旬のサービス提供開始を間近に控えて、ある段階からはユーザビリティ検証も加わりました。
UXリサーチとして今後もう一本、整えていこうと進めているのは定期開催型リサーチです。
「枠」をあらかじめ用意しておくことで、調査企画から実査までの立ち上がり効率が高まり、こまめな意思決定に寄与できると思っています。
また、サービス提供開始後はこれまでのような新規企画プロジェクトに加えて、既存プロダクトの改善検証機会がぐっと増えることが予想され、そのボリュームに耐えられるようにとも意図しています。
(こちらについても今後書きたいと思っています!)
最後に
組織のフェーズによって、どんなタイプのリサーチから導入しはじめるかはそれぞれだと思いますが、うちはこうだよ、とか、こんなのも導入しているよ、というおすすめ体制がありましたら是非教えてください!
みんなの銀行でのUXリサーチについて、今後もときどきお話していきたいと思っていますのでゆるくお付き合いください。では!
筆者紹介
井手 あぐり
みんなの銀行 デザイングループ UXリサーチャー
通信系BPOベンダー、リモートワーク人材サービス企業を経て、社会人向けサービスデザインスクールの修了を機にUXリサーチャーとしてキャリアチェンジ。2020年4月にみんなの銀行プロジェクトに参画し、サービスコンセプトづくりからユーザビリティ改善まで幅広く調査を担当。趣味はロードバイクでの林道探索。
みんなの銀行では、デザイナーの仲間を募集しています。
https://corporate.minna-no-ginko.com/careers/job-descriptions/designer/