Appleが銀行を作ったら? 海外チャレンジャーバンクをテーマにトークイベントをしたよ(後編)|出演:上野直彦氏・小林弘人氏・日下光氏・永吉健一
――こんにちは、『みんなの銀行 公式note』編集長兼広報の市原です。本記事は、先日公開したZoomオンライントークイベントのレポート記事の後編です(一部抜粋・編集)。
登場するのは、スポーツジャーナリストや漫画原作者として活躍される一方で日本ブロックチェーン協会(JBA)の事務局長をつとめられる上野直彦さん、『ワイアード・ジャパン』『ギズモード・ジャパン』などの多数の媒体を創刊されてきたインフォバーン共同創業者・代表取締役会長の小林弘人さん、エストニアと日本で行政のDXアドバイザーをつとめられたxID代表取締役CEOの日下光さん、そして国内初のデジタルバンク、みんなの銀行の事業をリードする副頭取の永吉健一の4名です。
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スティーブ・ジョブズが生きていたら、Appleが銀行を作ったら
永吉 では次に、マーケティング観点をテーマにお話していきましょう。小林さんが最初にN26に抱いた印象を教えていただけますか?
小林 ドイツに行った時の話ですが、ベルリンのテーゲル空港の出国カウンターを出てすぐのところにポスターがあったんですね。色も淡いグリーンやピンクなどのパステルカラーを使っていて、パッと見ではアパレルのポスターのよう。でもよく見たら「銀行のポスターだ!」って、驚いたことがありましたね。
小林 N26の広告のキャッチコピーやフレーズはその時々で変わるのですが、中でも僕が気に入っているのは、「The first bank that you'll love(あなたが最初に愛すであろう銀行)」。キャッチコピーはいくつかありますけど、ここにN26の一貫した哲学が現れているんじゃないかな、と。例えばポスターに登場するモデルをみても、有色人種やマイノリティ、また、よくある笑顔のファミリーとかではなく、腕にタトゥーの入った人まで実に多様性に富んだ起用をしていて、彼らの手にはスマホ=N26があるんです。もしスティーブ・ジョブズが生きていたら……、Appleが銀行を作ったら……、きっとこういうものが生まれるのかな?と思わせるような。ユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンス含めて、そう感じますね。
永吉 私も小林さんと同じことを考えていたので、いま一瞬、鳥肌が立ちました! Appleが銀行を作ったら……。我々は2016年に、みんなの銀行の前身となるネオバンクとしてiBankマーケティングを立ち上げ、銀行のフロントチャネルとなる新しいマネーサービス『Wallet+』を作ったんですけど、その時のメンバーの合言葉が「iPhoneみたいな金融サービスを作りたい」だったんです。
永吉 だから今のみんなの銀行は、更に上位概念で「Appleが銀行を作ったら、どんな銀行ができるか?」を考えてここまでやってきたので。だからこそプロダクトだけではなく、新しい銀行として、会社のカルチャーや社員のマインドを、もっともっと変えていくんだ、と強く考えています。
みんなに愛される銀行は、社員みんなにも愛されなきゃダメなんだ
小林 先ほど日下さんも、「銀行を、格好良いかどうかの基準で選ぶ」とおっしゃっていましたけど、まさにそこだと思います。以前、N26のCPO(Chief People Officer)を日本にお招きした時に、なるほど!と納得したことがありました。
小林 N26の新入社員の研修用レクリエーションは、全てアプリで行い、そのアプリはN26のインターフェースと一緒なんだそうです。彼らがN26のユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンスにすごく自信を持っているから、という前提はもちろんですが、N26の新入社員はそもそもN26のユーザーでありファンでしょうから、研修で使用するアプリも、同じような直感的な操作が可能だとやりやすいですよね。“The first bank that you'll love”の通り、みんなに愛される銀行は「社員みんなにも愛されなきゃダメなんだ」ということが現れているのだと思います。だから一緒に働く社員に対する態度も、ユーザーに対するそれと一貫している。すごいなぁと思いましたね。
N26とみんなの銀行のブランドの世界観
永吉 ブランディング観点からも見ていきましょうか。N26は淡いパステルカラー、ペールトーンを使っていて、リアルな人間のモデルを起用していますよね。写真が美しく、まるでPinterestのようでもあります。
N26の公式Instagramはこちら
永吉 一方で、みんなの銀行はモノトーンカラーでシンプル&ミニマルにまとめています。リアルな人間のモデルを起用する代わりに、世戸ヒロアキさんの描くイラストを採用して世界観を構築しています。N26のマーケティングやブランディングの戦略の上手さについては、これから学んでいきたいことも多いです。
みんなの銀行の公式Instagramはこちら
小林 「理屈じゃない格好良さ」みたいなものは、その実現に、相当の技量が求められると思います。ぜひ、みんなの銀行さんが、日本の銀行の従来のスタイルを変えていって欲しいです。
割り勘機能はキラーコンテンツ!? みんなの銀行へ期待していること
日下 最後にひとつ、個人的にとても気に入っているN26のサービスがあって……。ぜひ将来、みんなの銀行さんでも導入を検討して欲しいなと思っているのですが。
永吉 我々は、コンセプトの一つに「みんなの『声』がカタチになる」を掲げています。皆さんからのご要望・ご意見はいつでも大歓迎です!
日下 では遠慮なく(笑)。N26に最近追加された「Round-Ups」という機能なのですが。例えばお店で、2.8€のコーヒーを3€の現金で支払ったとすると、0.2€のお釣りが出ますよね。このお釣り、いわゆる端数のような少額を自動的に貯金していくようなことが、アプリ上でできるのです。自分で自由に金額を決めて、自分が指定したSpaceに自動的に移動させることができる。お釣り投資ではないですけど、続ければ「1年間で何百€貯まるかも!?」というゴールセットになるので、面白いなと思っているんです。
N26のアプリ画面は、以下の公式サイトでご覧いただけます!
永吉 確かに、お釣りのような通常は意識しない少額を、自動的に積み立てていけるのは面白いですね。
小林 では僕も。ドイツ人の友人は、N26の割り勘機能をよく使っていまして。割り勘機能って、実はキラーコンテンツではないかなって思うのです。自分が使うことで、身近な友人らに「あ、いいなそれ!」って興味を持ってもらえますし、N26での口座開設にもつながっていくような気がしていて。もしみんなの銀行さんでもお考えでしたら、ぜひ実装していただけると。
永吉 実はめっちゃ考えています(笑)。食事会の支払いやギフトを友人や同僚と合同で購入する時などは、一人が立て替えて支払うシーンも多いですから、割り勘機能はぜひやりたいですね。
終わりに 銀行の未来・日本独自の発展の仕方を考える
上野 今日は大好きなメンバーとディスカッションできたので楽しかったです。スティーブ・ジョブズが生きていたら、Appleが銀行を作ったら、本当にN26みたいな感じになっていたのかな……と思いながら、一方で、日本には「日本ならではの独自の発展の仕方」もあるのでは、とも思いました。例えばアプリにゲームっぽい要素が盛り込まれていたり。現代はコミュニティビジネスの時代と言われるほど、スポーツから何から何まで、すべてコミュニティ単位。コミュニティ内のユーザー同士でつながれる仕掛けづくりが、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。楽しみです!
永吉 上野さんは日本ブロックチェーン協会の事務局長をされていますから、これからの新しい技術やブロックチェーンなどが、みんなの銀行のプラットフォームを介してつながって、そして世の中にどんな「新しい価値」を提供していけるのか……これからも一緒に「銀行を再定義していく方法」を考えていけたら嬉しいです。
小林 僕も上野さんの意見に賛成です。ヨーロッパでは国同士が近いこともあって、各国をトラベルしてシェアハウスに住んだり、コワーキングオフィスを借りたりする人たちが多いので、彼らにとって利便性よく作られているんですよね。だからN26にも旅行保険やオンラインストレージのサービスが付帯しています。では日本では、どうやっていけば良いのでしょうか。ヨーロッパでは、若い世代が中心となって、サステナビリティを重視するエシカルバンクを支援していたりもするので、そういった日本的なものがあっても良いし、ヒントになるのではないかなとは思います。と言いつつ、個人的には、暗号資産の保管ができるといいな(笑)。
永吉 エシカルバンク、すごく参考になります! 最後に日下さん。IDが一つにまとめられていく時代、行政と金融はより近い関係になっていくと思いますが、デジタル行政の分野を専門とされてきたお立場から、コメントをお願いしたいです。
日下 「日本ならではの独自の発展の仕方」と「銀行の再定義」というキーワードは、僕の中でフックになりました。急拡大したN26にもハードルがあって……、EU圏を中心にグローバル展開していく中で、行政というデジタルガバメントの部分は、彼らも、各国のレギュレーションに合わせなくてはいけないのです。日本独自の発展方法として僕が考えるのは、「行政のデジタルトランスフォーメーション」と「金融のデジタルトランスフォーメーション」を、掛け合わせてやっていくこと。ここは外資も入り込みにくい領域なので、すごく可能性があるのではと思っています。地域密着型金融の場合は指定金融機関(地方公共団体が公金の収納及び支払の事務を取り扱わせるために指定する金融機関)としてのナレッジもありますから。
行政側も、今まさにデータを利活用して社会づくりをしようとしている真っ最中。「個人情報(ID)は誰のものか?」という議論も起こっています。みんなの銀行さんのミッションにもありますが、「みんなに価値あるつながりを。」は「みんなのデータをみんなのために使う」ということに置き換えられるかもしれないし、「金融機関におけるデータ利活用の再定義」を、「行政×金融」を掛け合わせてやっていければ、N26以上に、面白いものができてしまうのではないかなと思っています! あんなことできそう、こんなことできそう、と日々妄想しながらワクワクしています。
永吉 行政ID、共通IDで構築される世界観は、我々がみんなとつながっていくためには、キーになってくるソリューションのひとつだと考えています。情報銀行の分野は日本はまだまだですけど、銀行の信頼、安心・安定をもって「信用をマネタイズする」というのが、銀行の本質。いろいろチャレンジしていきたいと思います。ご参加いただいた皆さん、聞いてくださった視聴者の皆さん、本日はありがとうございました!
――前編・後編の2回に渡ってお送りしてきたトークイベントの模様。前編ではチャレンジャーバンクの話から始まり、N26とみんなの銀行のサービスや機能の共通点・相違点についてトークを繰り広げ、続く後編では、マーケティング観点について掘り下げてきました。今後もnoteでは、様々な人たちの「声」を紹介することを通して、皆さんとつながり、一緒に考えていくきっかけを作っていけたら嬉しいです。
👇上野直彦さんにご参加いただいた、「#お金のこと話してみよう」をテーマに実施したトークイベントの模様も合わせてお楽しみください(全4回連載)。